2013年9月5日木曜日

【医師から眺めるMR】 2012年10月25日

管理人が、医師向けに書いた試作原稿です。

→ 知っているようで意外と知らない、製薬営業の現実。MR(医薬情報担当者)業界の実情を医師へ伝えることで、相互理解を深め、ベタな営業慣習への甘えから脱却。MRとの共存共栄を、真剣に考えていく。

★MRって何ですか?
 いつものように医局前に並ぶ、ダークスーツ姿の面々。大きな黒カバン、資料の入った紙袋、丁寧な口調。駆け足で医局内へ戻ろうと扉を開ける寸前、私たちを「先生〜!」と呼び止める人々。
 診療所でも同様ですから、全国の医師にはありふれた光景でしょう。

 彼らの職種は、MR(Medical Representative)。日本語では、医薬情報担当者。
 古くはプロパーと呼ばれていましたが、製薬営業の熾烈な競争を反省し、新しい営業スタイルを目指して、プロパガンダに由来する名称からの変更された職業です。
 プロパーの場合、普通の営業マンと同じく価格交渉、納入や代金回収にも関わります。そのため、特定の医師に自社製品をたくさん処方してもらう見返りに、納入価を値下げし、薬価差益を医師へ還元するという行為が続いていました。
 各社のプロパーが連日競うわけで、金銭的な利害関係が生じれば、医師とプロパーの関係も怪しいものへと変質しやすくなります。

 そこで製薬業界内で改革機運が高まり、独占禁止法の関係もあって、1991年にプロパーは価格交渉への関与を禁じられます。 1992年には薬剤師が中心となって当時の厚生省への答申が提出され(朝長レポート)、チーム医療の一員としての新たなMRが想定されたのです。
 1997年からは、MR教育センター(現・MR認定センター)が実施する認定試験の合格者が、各営業現場でおもにMRを務めています。入社した新人MRは、同年12月の認定試験の合格をもって、ようやく本当のスタート地点に立てたと言えます。

 とはいえ、日常業務で対面する彼らを「くすりやさん」「営業の人」「プロパーさん」と呼ぶ医師は今でも少なくない上、MRがそもそも何をしている職業なのかを、詳しく知る機会はありません。
 休憩時間や診療時間外に追いかけられるほどたくさん訪問してくるのに、MRとは何?という質問に、ズバリと答えられる医師が少ないのです。

 私の場合、大学医局から市中病院に派遣されていた2004年から、MRについて個人的な興味を抱くようになりました。とにかく、毎日たくさんのMRが院内へやってくるからです。
 どうして製薬企業でこれだけの人数が必要なのか、なぜ院内でひたすら出待ちをするのか、どうして夜遅い接待の現場でも活躍しているのか?

 よくよく考えてみると、先輩医師の誰からも明確な理由を習ったことがありませんでした。医学部生のときから、接待現場にMRがいることは理解していたものの、それが何故か?を講義では教えてもらっていません。
 周囲は、MRが病院に来ることをさほど疑問には感じていない様子で、接待や病院行事の際には担当MRがいつも医師へお酌をしている。

 結局、疑問に思うことはMRに直接聞くのが一番だろう、という判断になり、2005年からは疾患勉強会の依頼があるたび、社外講師として各営業所まで出向き、その際にMRの実情を教えてもらうようになったのです。

 すると、普段の臨床現場では知り得ない、色々な実態が見えてきました。
 その当時、国内の製薬企業は再編統合の真っ最中であり、ライバルだったはずの両社の担当MRが、廊下を仲良く連れ立って歩く事態になっていました。どうして一緒にいるのですか?と質問すれば、こんな展開になるとは想像していなかった・・・という悲しい返事が帰ってきます。
 企業の存続だけでなく、中高年MRのリストラも現実となり、医師が想像しているよりもMRの仕事が厳しいことも判明してきます。
 各社の所属MRが多くの葛藤を持ち、担当製品の優劣に気を遣い、製品説明会の前は懸命に準備している。

 知れば知るほど、MRという職業について私は理解不足だと痛感し、業界関係の実情を調べるようになりました。
 2006年には某製薬企業の新入社員研修(導入研修と呼ぶ)で講演する機会をもらい、会議室に集った80人以上の輝かしい姿を見て、「ああ、MRは現場で苦労しているのだ」と確信しました。
 まだ本物のMR経験がない新入社員の若者たちは、医療界に対して純粋無垢な夢を抱いています。医療に貢献したい、患者さんのお役に立ちたい、弊社の製品群は人々の健康に寄与できるはずですといった、驚くほど志の高い若者たち。
 上司になる担当MRたちが、接待でうやうやしくお酌をしている姿とは比べようがないほど、生き生きとした雰囲気に驚嘆したのです。

 さらにグループ討論で話してみると、当時医師6年目の私が苦労してきた職業体験が、彼らにとっては非常に新鮮に聞こえる様子でした。
 つまり、医学部生が研修医にあこがれ、研修医が上級医師から学ぶのと同様、MRも一緒に医師から学ぶことが適切だとも感じたのです。
 医療現場のことをMRが知り、何を持って患者のために貢献できるかを真剣に考えれば、医師とMRはもっと分かり合えるはず。
 ベタな営業、夜の接待、講演会後のパーティーなどが無くとも、MRは医師から医療を勉強できるはずだ。そのように確信した私は、臨床のかたわら、各製薬企業の営業所に出向き、「医師から見たMR像」を講演していきました。

 大学に戻った2008年1月からは、老舗の製薬業界月刊誌(Monthlyミクス)で連載を書くようになり、これまでの営業慣習に関わる多くの問題点を指摘し、医師視点での改善案を提示し、突飛なアイデアをふくめて、MRという仕事がさらに知的で充実した内容になるよう訴え続けています。
 また、製薬企業本社でのMR研修にも企画段階から参加できるようになり、2011年には医師がMRの本格的なトレーナー役を務める斬新な研修も実現しました。
 けれども、このMR研修は医師として経験した多くの症例問題を、製薬業界の営業向けに私がアレンジしたものであって、一見すると医学部生や研修医が取り組む症例問題と変わりが無いのです。
 受講したMRたちは感化され、医療思考の奥深さに興味をいだく。医学部生が医師になるために挑戦する思考の各段階を、製薬企業のMRにもしっかりと適応できることが分かり、医師とMRは「医療の知性において、対等に討議できる関係だ」と発見しました。

 そして、診療や医学研究の世界だけでなく、医療に関わる巨大なビジネス市場の一端を知るようになったことで、医師として国家のヘルスケア全体を思案するきっかけにもなりました。
 出発点は、MRは何をしているのか?について個人的な興味を持っただけなのですが、MR関連だけでなく、ヘルスケアに関わる多くの有識者と対談できるようになり、医師としての視野が広がったのです。

 MRを知ることは、医療専門職の外側を知ることであり、さらには年間9兆円が関わる壮大なビジネス市場をのぞき見ることになります。年間36〜38兆円にものぼる国民医療費の内情が、どのように費やされているかを学ぶ機会にもなります。
 保険診療に関わる医師であれば、その端緒として、身近なMRについて学ぶことは決して損にはならないでしょう。

 病院へやってきたMRを深く理解することは、医師の本業にもきっと役立つはずなのです。

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