2013年10月19日土曜日

【イメージ戦略の功罪】 2013年9月28日

製薬企業で作成される製品パンフレットや医家向け広告等は毎年、膨大な数にのぼりますが、有名ブランド医薬品ほど多額のコストが投入されているのは間違いないでしょう。

各社の合計で何種類存在するのかは知りませんが、21世紀に入ってからのACE阻害薬、スタチン、CCB、ARB、DPP-4阻害薬など処方数が多い生活習慣病関連では、正確に数えるだけでも一苦労しそうです。

いずれも自社品有利のEBM(?)を喧伝すべく、医学論文を加工して作成しますので、元ネタはできるだけ有名でインパクトファクターの高い雑誌に掲載されてほしいもの。
資金面でのつながりが深いことから、医師・製薬企業ともに利害関係が一致したときには、良からぬ思惑が生まれても不思議ではないわけです。

さて、いまだに正確な事実関係が見えないバルサルタンの事例では、毎日新聞の報道(2013年9月26日)によると、慈恵医大の論文で419種類、京都府立大の論文でも285種類の各種資材が作成されていたそうです。

管理人も「選ばれしもの」「パワーが違う」という同製品のパンフレットを担当MRから受け取ってきた医師の一人ですが、ARBの場合は競合他社のパンフレットでも同じように立派なタイトルが踊っていますし、あまり真剣に取り合ってはいませんでした。

勇ましいイメージ画や宣伝文句は、バルサルタンの競合品・配合剤でも多数使用されていますし、有意差を強調するグラフの下に掲載される論文紹介は、いつも小さいフォントで控えめに書かれている

結果を都合良く解釈してませんか?とMRに質問しても、「本社が作成したものですから・・・」という返答が普通です。
細かい差異を熱心に説明する各社MRに対して、「ARBの担当者は明確な差がつけられなくて大変だね」と、ひそかに同情していた医師は少なくないでしょう。

英語の原著を批判的に読みこんでいない臨床医に対して、「効く・素晴らしい・他社品に勝っている」という製品イメージを植え付けるには、科学的に不利な部分はできるだけ目立たなくし、ちょっとした優位性を誇張すれすれで表記したほうが好都合です。

呪文のごとく完璧に唱えられるまで各種データをMRに丸暗記させて、手元には勇ましいキャラクターが踊り舞う製品パンフレットを持たせる。
数千人のMRを全国に投入すれば、各医療機関に対して一定のイメージ浸透は可能ですし、他社よりも目立つためには質だけでなくMRの量=コール数も必要です。

かくして、同じようなARB効能をうたうMRが全国の医療機関に溢れる状況が生まれ、支持側の有名論文がある場合には、さらなるプラス効果を宣伝する構図になったと言えます。
(バルサルタンの場合は担当MRの責任というよりも、結果的に”誰か”が悪い嘘をついていたことになります)

なお、構図的には資金力のある製薬企業であればどこでも発生しうる不祥事ですし、競合他社が紹介している元ネタ論文も大丈夫なのか?という検証を忘れてはいけないでしょう。

売れる医薬品を維持するためのイメージ戦略については功罪があり、上市前に盛り上げて知名度を高めておく段階から、発売後にアーリー・アダプター型医師からの新規処方を獲得するまで、スタートダッシュには欠かせない面があります。
長期処方が解禁される発売1年後までに、一定数の好意的な処方済み医師を確保しておかなければ、追い上げてくる競合品に負けてしまうという焦りもある。

大手製薬企業であれば、内資系でも外資系でも似通った派手なイメージ戦略をとっていますから、ひとりの医師の手元には、いつまでも多数の製品パンフレットがお届けされることになります。
何年間も似通ったデータを繰り返し説明される側としては、MRの説明に飽きてしまい、おまけのノベルティグッズに新しい驚きを期待したりする。

とはいえ、ひとつの論文から数百種類の各種資材を作る熱心さに驚くとともに、自分にはそのごく一部しか届いていないのか、と不可思議な気持ちになります。

良好な製品イメージを生み出すために、批判を受けるのが当然の医学論文を用いることの矛盾と限界については、MR個人も十分に認識しておく必要がありそうです。

完璧でlimitation抜きの論文など存在しないのに、有利なデータ解釈とKOLコメントで、さぞかし素晴らしい結果であったかのように装う姿勢は、論文不正に関わらず危険な誘惑にはまっていく運命にあります。
過去の思い出から、不利な状況が自然と消去され、美しく好都合なイメージになりやすいのと同様です。
大規模な臨床試験では、手間とコストの問題から追試・再試ができませんし、サブ解析の方法によっては悪い思い出も、未来に繋がる美しい思い出に変わってしまうかもしれません。

医師からの信頼を受けるべきMRとしては、企業人として社内命令に従うだけでなく、自社のイメージ戦略は何ぞや?という、ひそかな批判精神を忘れない方が良いでしょう。
個人責任ではない新たな不祥事に巻き込まれるリスクが、EBM&イメージ戦略の宴の後には、待っているのかもしれないですから。

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