2014年1月18日土曜日

【MRが院内実習する日】2014年1月13日


★先日ご紹介した管理人の過去連載から、その一つを2年ぶりに再掲します。登場人物は架空ですが、大学病院でのエピソードを踏まえております。

★掲載時は4ページありましたので、お時間あるときにご一読ください。

医師による発展的MR論 第13回 Monthlyミクス2009年1月号
「MR育成法(近未来編)~医療現場をリアルに学ぶ~」

<そう遠くないある日>
 「“病院実習”って言ったって、何を持って行けばよいのか分からないや」と愚痴っぽくつぶやく某新人MR。

 今春に入社してからは、数ヶ月間におよぶ導入研修、営業所への配属とOJT、さらにはMR認定試験の受験勉強と慌ただしく、最近ようやく念願のMR認定証を取得できたばかりだ。強面の所長にまで、いろいろと気を遣ってもらったし、やっと晴れて正式なMRになった実感が沸いてきたなあ。 
 
 そして噂には聞いていたけれど、今年からMRを“病院で実地研修させる新体制”が整ったとかで、新卒の自分たちが第一期生になるとのこと。大学3年生の就職活動中から、現役MRの先輩たちに相談相手になってもらったりして、業務のだいたいは知っているつもりだったけど、半年以上を自分なりに過ごしてみると「分かったようで分かりにくい」のが本音。

 あちこちの施設での待ち時間と移動時間は予想以上だし、忙しい先生たちに相手をしてもらえない場合だってある。せっかく製品知識を覚えてから挑んでも、なにやら難しい医学の質問を浴びせられて毎回、完膚なきまでに撃沈だもの・・・。そのくせ先輩たちは新製品を売り上げてこいって息巻いているし、今後どうすればいいのやら?

 でも、病院側から自分たちMRが不規則に廊下で待機しているのはセキュリティ上の大問題との苦情が多く、かといって面会時間制限に加えて完全出入り禁止にされては、製薬会社としてMR活動が立ちゆかなくなるし。

 悩んだ上層部が話し合った結果、MR認定センターが仲介して、“新人MRに医療現場を実体験させ、医療職との相互理解を図る”方針が決定したそうだ。海外では実施されているらしいけど、日本では最初になるとか。とりあえず自分は噂に聞いたこともないなあ

 当初、臨床研修医と全く同じ境遇でMRを過ごさせてみるという案も出ていたそうだけれど、「あの長時間勤務を毎日体験させると脱落者が続出する」という医師側の意見で結局、医学部5年生の病棟実習に混ぜられることになった。だから、担当する患者さんたちに書面で了解は得ているものの、見た目は医学部の臨床実習生と同じ白衣姿で過ごすことになるのだって。

 自分は経済学部出身だからなあ、そもそも病院なんて年に数回、風邪で医院を受診するくらいだったし。薬学部出身の同期MRは、病院薬剤部とか市中薬局で実習したことがあるらしいけど、医学部生と一緒ではないと話していた。まさに未知の世界・・・だな。

<初めての医学部>
 着慣れない白衣に身を包むと、病院の中も違って見える。「持つだけでそれっぽく見えるから」という理由で聴診器を貸し出してもらい、顔写真入りの名札には“院内実習生”と記されている。鏡でこの格好を確認すると、TVドラマに出てくるエキストラみたいだ

 今回、うちの会社からは新卒のうち20人が2人ずつペアになり、BSLと呼ぶ各診療科の病棟実習に合流することになった。うちのE班は男性3人・女性2人の計5人だから、そこに自分たちMR2人が加わって計7人。

 集合時間の午前9時に医局へ同僚と一緒に行くと、ちょっとリラックス気分の医学部生たちが、分厚いテキスト を片手に集まっていた。

「お二人は製薬会社の人なんですよね、どうぞよろしく」

 班長をつとめるA君が、ニコニコと挨拶してきた。彼の年齢は23歳でちょうど自分と同い歳だという。「最近、若いMRが医療のことをあまり理解していないというクレームが年配の先生方から多くなりまして、弊社としても実際に新卒MRが医療現場を体験するのが適切だという方針になりました。」

 へえ、そうなんだという表情のA君。「まあ、僕たちは教養課程はともかく、ずっと医学部だけで医療漬けの世界にいますからね。周りは、いつも医療関係者だし。6年間あるから大学というか、医学専門校というのが正しい状況じゃないですかね」

 この世界はちょっと特殊でしょう、と苦笑いするA君の横で、キレイめお姉さんのBさんが興味深そうにこちらを見る。「私もA君も、今年はずっと同じ5人で外科とかマイナーとかを回っているのよね。夜飲みに行くのも昼食も一緒で、このE班は仲が良いほうだけど、いつも同じ顔ぶれだから気分転換が必要かなとも思っていたの。だから、製薬会社からMRさんが派遣されてくることになったと聞いて、ちょっと面白いなって」

 Bさんは名門女子高出身で、父親が地元で有名な内科開業医なんだとか。社内研修では新卒医師の約35%が女性になったと習ったけど、こうして医者の卵と知り合うと実感するな。でも、E班の皆は普通の若者たちだ。良家の出身かもしれないが、すごく特殊な感じはしない。
 

<病棟で目撃する世界>
 「じゃあ、病棟に行きますか」

 引率役の准教授から簡単なオリエンテーションがあった後、自分たち7人はこれから3週間を過ごす内科第2病棟に案内された。“病気は患者さまに学ばせていただくもの”という講座主任教授の方針で、とくに学生の接遇態度については厳しく指導されているのだという。TVの医療ドラマでは場面が次々と切り替わっていくけれど、実際に病棟へ来ているとそんな格好良い展開にはならないし、目の前には狭い空間の中にたくさんの医薬品と機材が並んでいて圧迫感があり、しかも皆の距離が近い。

 「あ、これってうちの社の抗生物質じゃん」と同期MRが点滴台に置かれたボトルを指さす。点滴製剤がこうやって準備されているのって、普段は見ることもないからな・・・。近くの医療廃棄物用のゴミ箱には使用済みの薬液ボトルがドサッと詰め込まれている。こんなに多くの医薬品が患者さんたちの身体へ入っていくのか、と考えもしなかった事実に不思議な感情がわき上がってきた。

 とはいえ、実際にどうやって実習時間を過ごせばいいのか分からず、周囲を慌ただしそうに動き回る看護師の姿に驚き、医師が病院PC端末で黙々と指示出しを行っているのには、目が釘付けになった。

 先生たちって、廊下で出会うよりも気合いが入っているようにも見えるなあ。

 「おっ、本当に実習へ来てんの?うちの病院長も物好きだなあ!でも、白衣を着てると誰でも医者っぽく見えるもんだね」

 横を見ると、うちの社で講演をお願いすることが多いC先生が、緑色の術衣に長白衣を引っかけて笑っている。

 「もう昨日は当直で全然眠れなかったのにさ、午前の外来は満員なんだもんなあ。また昼飯を食い損ねて、この時間だよ。医者ながら健康的な生活とは言えないねえ・・・」

 無精ひげの伸びたC先生は少しやつれて見えるけど、何だかとっても医者っぽい。うわ、海外ドラマで出てくる医師たちって、こんな雰囲気だったかな。

 「ところで、うちの病棟でも入院患者さんを担当するんだろ?病室へ挨拶に行った?」

 これからなんです、担当は12号室のDさんという方になっていますと答えると、C先生はニヤリと笑ってから、病室に向かって足早に歩き出した。慌てて後ろをついて行くと、ベッドの上で初老のDさんは老眼鏡をかけてくしゃくしゃの新聞をにらんでいた。

 「Dさん、今日の調子はどう?この前、例の検査があったんでしょ。昨日のカンファで聞いたよ。でも今回は、前よりも入院が長くなっちゃいそうだね」

 いやあ、検査結果を聞いてがっかりですよ、と肩をすくめるDさん。「でね、今週から院内実習生が来ているんだ。同意の書類にサインしていただいたと思うけど、製薬会社の人なんだ。白衣を着ているから医学生みたいだけど、いつもはうちの病院に来て営業をやってる人だよ。僕も一緒に仕事することがあるんでね。まだ新人っぽい顔しているけど、勉強に来ているのは同じだから医学部生と一緒に扱ってください」

 よろしくお願いします、と簡単な自己紹介をすると、Dさんの顔つきが急に曇った。げっ、何かマズいこと言ったかな・・・。

 「あんた、つまり薬を作ってる会社の人?院内で顔を見たことないけどさ、俺の薬のことも分かるの?」いや、普段は営業職として先生方に医薬品情報をお伝えしているMRという職業です、と丁寧に答えてみたが、Dさんはポカンとした表情をしている。

 「まあいいや、若いもんにしちゃ、態度がちゃんとしているから話し相手くらいになるだろうし。この病院は看護婦さんの卵とか、医者の卵もたくさん来ているからね。俺みたいに何回も入院していると、どの看護婦さんに彼氏がいるかだって知っているのさ!あはは!!」完全に面食らう某新人MR。

 とりあえず、これまでの病状経過と、最近の体調や通院頻度、家族への愚痴を聞いていたら、すぐ夕方になっていた。とにかく慣れない状況の連続で、本当に真っ青だ。ああ、胃が痛いなあ・・・と思いつつも必死で笑顔を作り、でも何だか面白いと感じていたころに班長のA君がやって来た。

 「Dさん、今週から病棟実習をしているE班の班長で、医学部5年のAと申します。僕たちの班には、新しく製薬会社の人が入っていますけど、何か困ったら教えてください。こちらの彼の本職は背広を着たビジネスマンで、こういう医療現場に不慣れなんですよ」

 まあいいやと苦笑いのDさんにお礼を言ったところで、本日の病棟実習は終了となった。

<MRとしての自らを振り返る>
 医局に置いた荷物を取りに帰るとき、廊下にずらっと居並ぶ黒スーツのMRたちを目の当たりにした。何だか異様な光景だ。

 ああ、自分は普段こういう姿で見られているのかと一瞬、足が止まってしまった。しかも白衣姿だから自分を医師だと間違えているMRもいて、すれ違いざまににこやかな会釈までされてしまう。何なんだろう、この感覚・・・。俺ってMRなんだろ、どうしてこんなに違和感を抱くわけ?

 頭がどんどん混乱し、医局に白衣を置いてから、ペットボトルのお茶をがぶ飲みしても、喉がカラカラになる。病棟で過ごした半日と、そこから戻ってきた廊下。いつもは営業車で施設間を飛び回って、色んな事情に通じてきたつもりなのに、実際にこうして患者さんや医学部生や先生たちと医療現場で出会ってみると、信じられないくらい予想と違っている。

 少なくとも、営業所では誰もこんな生々しい話はしていなかった。研修中も製品知識とか接遇とか、営業・マーケティングの話は出てきたけど、医療に関わっている職種がどう動き回って何を話しているなんて習ったこともない。

 「結局は薬を売ってナンボでしょ、MRは。がんがん詰めてこうよ、美味しい食事も用意してさ。先生たちなんてイチコロでしょ。」これ、仲良しの先輩の口癖だ。

 あれ、自分って入社してから、一体、何を学んできたんだろう?配布された分厚い製品資料も読み込んで、同期とは将来の話で盛り上がるのに・・・。

 親父からは「社会で恥じない人間になれ」と毎度言われているけど、いつも廊下で頭を下げてばかりでさ。いや、これだって重要な業務だと思う。MRが本当に必要な重要情報を運んでいるわけさ。俺たちがいなきゃ、誰が薬を作って売るときに最終責任を持つんだい?

 でも、実習初日なのに患者のDさんの話と笑顔、本当に衝撃を受けた。あんな難しい病気じゃなかったら、やっぱり普通の人なんだろうな。うちの製品を飲んでるって、面と向かって患者さんから言われたりするなんて、考えたこともなかった。この実習は3週間限定だけど、俺はちゃんとDさんの生き様を見ていこう。それにE班の皆や、C先生の姿だってしっかり覚えていくぞ。明日は朝から特殊検査だっていうから、遅刻しないようにしなきゃ・・・。

 何だか辺りが不自然に明るい。違和感あるなあ、この日差し。今日は実習2日目の朝・・・のはずがないじゃんか!

 枕元の時計はすでに午前10時過ぎを指している。今日は、日曜日だった。ああ、これって俺の“初夢”!?

 うわ、リアルな病院実習の続きを夢でも良いから見てみたかったと本気で思う、正月休み中の某新人MR。だってこんな経験、夢くらいしか起きないでしょと、大きなため息をついた。でも、いつか正夢にならないのかな・・・。
        

<今月のポイント>
1. MRに医療現場を実体験させる方法として、医学部生の病院実習に編入することを真剣に考えよう。

2. 会社内での研修では知り得ない凝縮した医療情報を、MR各人が学べる機会を増やすべき。

3. 真の医療を構成するのは人間であり、MRは主体的な現場感覚を体得する必要がある。

(掲載時から、一部を加筆修正しました)

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