2014年5月27日火曜日

【お試しくださいと言われても】2014年5月26日

各社のMRがそれなりに使う言い回しに、「是非、ご処方をお試しください」という医師へのクロージングがあります。

挨拶→アイスブレーク→製品案内→講演会情報に引き続き、本日の用件を済ませる決め台詞としての「お試しください」。
臨床医としてもMR研修のトレーナーとしても、"患者さんに試す"という言い方が、管理人はどうしても苦手です。

MRの立場としては、社内教育&営業戦略として適正使用を促しながらも、販売増を狙うという意味になります。

それは営利企業に勤め、膨大な開発費を投じた医薬品を宣伝し、ノルマ到達を目指して"売らなければいけない"職業としては当然の行為でもある。
対面している医師にも、MRの商業的な言動を許容するだけの慣れが出来ていますし、いきなり拒否されることは少ない。

ただし、「試す」という言葉は医療従事者にとって、とくに医師には負のイメージを抱かせることを忘れてはいけないでしょう。

試みる、という言い回しも似ていますが、「試す」ほうが根拠なく適当に選択しているような印象を強くします。
さらには、医療サービスの受益者であるべき患者さんに対して、医師が軽い気持ちで処方するようなネガティブなイメージを抱かせるのです。

臨床現場で、外来中に医師が「今回は、このお薬に切り替えて、効果を見てみましょう」という場合はありますが、「試してみましょう」は患者さんが悪い意味で受け取りかねない。
可能であれば、他のポジティブな言い方を選ぶべきであって、診療後に不安をあおるような発言を多くの医師は回避するものです。

患者さんによってどのように医師の言い分を否定的に受けとめるか、こっそりと想像力を働かせておくことは、トラブルを未然に防ぐための職業スキルでもあります。

製薬企業の研修現場を観察していると、おそらくこの「患者=本当の顧客=医療行為の評価者」という発想が大きく損なわれているように思います。

マーケットだ、プロダクトだ、シェアだと威勢の良いカタカナ言葉ではおおいに盛り上がるのに、全国の臨床現場にいる患者さんに対しての気遣いが乏しい。
"そんな青臭い発想よりも、差別化と競争勝利だ"というマネー賛美の業界トレンドが、医師の立場から見つめると少し空虚な熱気のように感じるわけです。




薬を飲むことを、心底喜んでいる患者さんはほとんどいません。

どの疾患領域であれ、いつか自然治癒して現在の苦しみから解放されるのであれば、それを選ぶ患者さんが圧倒的に多いことでしょう
しかし、高度に発達した医療用医薬品のチカラが治癒には通常必要であり、生存していくために絶対止めることができない場合すらある。
医薬品に感謝する一方、自らの意志だけで使用を中止できないジレンマ。
自らがそうした立場になって初めて、医薬品の素晴らしさと難しさを実感するわけです。

でも患者さんを目撃しているようで、重い真実を分かりきっていないMRは、顧客医師に対して処方のお試しを促してしまう。
悪意がなくとも、結果としては非常に軽はずみなディテーリングになってしまう危険性があるのです。
「MRさんが試してほしいと言うから、今日の処方薬はこちらにします」という医師には、誰もが再診したくないはずですが・・・。

他社品を内服中の患者さんたちについても、自社品への切り替えを積極的に促すMRは、別に悪い行為をしているとは感じないのでしょう。

処方数を獲得するためには、まず最初の1例目で良い治療効果を医師に実感してもらうべき、というMR視点は業界的には正しい。
そのための社内訓練も豊富ですし、競争力の強化で販売額が伸びていくのは、ビジネス的には面白い。

ただし、そればかりに熱中していると、患者さんの立場を軽んじる”セールスロボット型MR”として、こっそり医療現場から敬遠されていくことでしょう。

お試しを依頼するばかりのMRは、患者さんへの責任を負う医師にとっては、迷惑な存在にもなります。
面と向かって否定するのはトラブルになりそうだし、かといって毎回のリップサービスも面倒くさい。

とりあえず黙っておくか、という無難対応の医師を見ている場合、自らの言動に”処方のお試し”が含まれていないかをMRは見直すべきでしょう。

常々、患者さんの前に立つ医師にとっては、実験的な処方という発想よりも、"最短距離で最善の結果を得る"処方を好みます。
MRが提供すべきなのは後者であって、これまで蓄えてきた知見を堂々と見せつける、大チャンスのはず。
勝負どころを間違えたままでは、いつになってもMRとしての成長機会が増えません。

とくに深く考えず、自社都合でお試し処方を促しているMRには、冷たい応対が各地で待ち構えていることでしょう。

最短の思考プロセスで、ずばり最善の結果を提唱できるMRには、多くの信頼が集まることでしょう。
激変する医薬品業界において、どちらの立場になりたいか、それを決めるのは皆さんです。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。