2014年10月11日土曜日

【MRのムンテラ研修】2014年10月8日

医療現場では日常的に「ムンテラ」という業界用語が使われます。

たいていの場面では病状説明、という意味で用いられており、ドイツ語での、口+治療=”Mundtherapie”に由来しているそうです。
最近では英語のまま、「インフォームド・コンセント」「IC」と呼称するほうが内容的に望ましいとも言われますが、日本の医療がドイツ語主流だった当時の名残となっています。

あらゆる科において、医療行為はその受益者である患者へ、適切に説明されるべきものです。
口頭でも文面でも、その情報量に差はあれども「すべての患者が同じように理解&納得できる」ことが必要になります。

コモン・ディジーズである感冒や胃腸炎等にも詳しい病態生理があるわけで、全ては難しくとも、処方薬の効能効果や副作用、治癒の見込みなどを医師は日々説明するわけです。
重病であったり、急病の場合はムンテラの手間や付随する情報も変化するので、院内の持ち時間をどのように有効活用するか、医師は日々考えることになります。

管理人は腎臓&透析専門医なので、腎臓の機能について各病院で数多くムンテラしてきたのですが、患者さんの病態によって内容は変化していきます。

「eGFR」と言っても、ほとんどの方は日常生活で聞いたこともない医学用語ですし、「すいていしきゅうたいろかりょう」と口頭で言われても疑問符が消えません。
「推定糸球体濾過量」と漢字で書いて示しても、”糸球体"が何を示していて、”濾過"とは何ぞや?という風に、解けない疑問だけが増えていきます。
医師にいちいち質問するのも気後れして、分からないまま黙ってしまう患者さんも少なくないでしょう。

eGFRを一般の方に伝える場合は、腎臓の構造を体内の位置を含めて図示し、恒常性に関わる役割を簡単にまとめ、機能低下がもたらす各種の病状について、「日常的な言葉」で言い換える必要があるわけです。

「からだの中で日々、発生する色々なゴミをおしっこに捨て続けるために、血液をとても小さな血管の渦の中で、こしている」
「そのひとつひとつの中で、血液をこしているときの勢いを表しているのが、eGFRという数字です」
「元気な腎臓ほど、たくさんの血液をこすことができるので、頑張っている糸球体も多く、eGFRも高くなります」
といった簡便な言い回しになります。
ここに腎皮質と髄質の構造差や、輸入・輸出細動脈や傍糸球体装置も含めてしまうと、聞いている患者さんは大混乱になる。
「腎機能低下は、いろいろと良くない」という話をおもにムンテラしているので、要旨を理解してもらうことが優先されるわけです。

こういった話を各社内&公開のMR研修で例示していると、意外と驚かれます。

その理由は、MRもかなりの「専門用語好き」で、難しい用語を使うと優秀な人材という雰囲気があるからです。
とくにプロダクト関連については、専用の社内表現を連発し、デキる業界人らしく振る舞ってしまうことも・・・。

MRの熱弁を聞いても「なんだか分かりにくいですね」という管理人の反応は、臨床医として理解できないというよりは、「エンドユーザーの患者さんだったら、難解で理解しようがない」という意味です。

MRの発言は、面会する医師を介して患者さんへ伝わっていくことがあるので、「**スタディのコロナリー・イベントのロングターム・リスクリダクションが20%オーバー」という類いの表現は、医師が真面目に通訳しないと、患者さんに伝わりません。
「このお薬を数年間飲んでいると、心臓を動かす大事な冠動脈の病気が、20%以上減るそうですよ」という言い換えを強いられるのです。

MRが自慢げに専門用語を連発していても、患者さんにムンテラする立場の医師は、診療現場で翻訳機としての働きをしなければならない。
熱心なディテーリングを受けても、そもそもの言い換えが面倒な場合、MRの発言は"業界内のノイズ”として医師はさっさと削減していくわけです。

MRが医学用語・業界用語を使うのは当然だ、という長年の商慣習に何となく助けられているだけで、自らの発言が難解すぎて、患者さんには”大幅カット"で届いているかもしれない。
懸命に勉強しているのに、もったいない話です。





そこで管理人としては、架空の患者さんを想定して「MR用語ではなく、患者さんが理解できる言葉でディテーリング練習」を提唱しています。

医師が院内で翻訳する手間を減らすことが大きな狙いですが、MR自身が医学用語を間違って理解しているかもしれないので、その正確性を確認する目的もあります。
MRの「ムンテラ研修」とでも呼称しましょう。

このムンテラ研修では、自社製品を使用中の患者さんに対して、MRが5分程度でその特性や効能効果を説明するという場面を想定します。
使って良い用語は、一般の高齢者でも容易に理解できる言葉や言い換えのみとします。
英語を含む外来語は極力控え、日本語で分かりやすい表現を使うことにしましょう。
高血圧や糖尿病といった疾患名は、じつは正確な病態生理を患者さんが理解していない割合が多いので、MRの力量も試されます。

今春発売の新薬群、SGLT-2阻害薬について、**という製品で考えてみましょう。
まずは、自らの個人ワークとして、その内容を箇条書きで記していきます。
下記に、一例を示します。

「こちらは、今年の春から発売になった、あたらしい効き目をもった、糖尿病を良くするお薬です」
「その効き目は、糖尿病の名前の由来をもう一度、なぞるようなものです」
「糖尿病は血液の中に、ブドウ糖という糖分が余計に多くなり、その一部がおしっこにも漏れ出てくる病気です」
「この新しいお薬は、その漏れ出る仕組みを利用して、血液の中にあふれたブドウ糖をもっとおしっこへ押し出すことができます」
「そのため、血液中のブドウ糖が減って、血糖値が良くなります」

上記は入門編で難易度が高くないのですが、ではGLUT(グルコーストランスポーター)の仕組みはどのように説明できるでしょうか?
副作用の尿路・性器感染症や、発売後に問題となっている薬疹については、どのようにムンテラできるでしょうか?

これらをMRの水準に応じて、患者像を絞り込みつつ、グループの皆で討議し、それぞれのシナリオを作成します。
その後、発表を録画しつつ、グループごとにムンテラを実演。
可能であれば、架空の患者役として上司や研修部が参加し、対面で相づちや疑問を投げかけると、さらに充実した研修となります。
診療場面をなぞってみる、というMR研修はブレインストーミングとして、かなり有益です。

本社単位でのスムーズな評価や実施には、管理人のような外部トレーナーがもつノウハウも使うべきですが、とりあえず皆で自主的に実施してみると、自社プロダクトについてさらに理解を深めることができるでしょう。

上手なムンテラができるMRは、医師面談時にフックとなる話題が豊富になり、「患者さん軸の思考ができる」と受け止められやすくなるはず。
今後、ムンテラ研修はMRにとって、重要なトレーニングとなると管理人は考えています。

さっそく、営業所やチーム内で挑戦してみてはいかがでしょうか?

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